現状維持をつづけてても、現状を維持することが困難な時代が到来する。
薬局を取り巻く外部環境はめまぐるしく変わりつづける。診療報酬や薬価の引き下げによって、将来の保険薬局の収益力が大幅に低下することは明らかだった。その状況を予測した当時の社長は、10年以上前に大きな決断を下す。
「門前薬局だけでは将来、事業が厳しくなるだろう。患者さまを支えつづけるためにも、しっかりと経済的な基盤も維持する必要がある。また、制度が変われば処方せんの受け取り方も変わる。環境変化に対応できる薬局への取り組みをおこなうべきだ」。
外部環境の変化は、何もマイナスなことばかりではない。規制緩和の波が薬局業界にも押し寄せる。2009年、改正薬事法が施行され、一部の一般用医薬品は登録販売者による販売が可能になった。これにより、異業種の薬局業界への進出が加速しはじめたのだ。
コンビニ、スーパー、家電量販店など様々な企業とトップ会談が重ねられ、最終的に『マチの健康ステーション』としてヘルスケア事業に力を入れていたローソンとの業務提携が決定。門前薬局から面薬局へ。コンビニの利便性と薬局の専門性を備えた、まったく新しいサービス企業へ。時代の変化に対応するべく、クオールの新たな挑戦がスタートした。
出店を加速させたのは、
創業以来息づく挑戦のDNA。
コンビニを出店するのなら、人が多く行き交う場所でなければならない。一方で、これまでクオールが店舗展開してきたのは、門前医療機関と連携が取れ、かつ、患者さまが不便を感じない場所。また、一定数の処方せんも見込めなくてはならない。すべての条件を備えた場所を見つけるのに、2年の月日がかかった。
以来、荻窪、豊洲と試験的に店舗を増やしてはいたが、なかなか出店が加速しない。そんなとき、背中を押してくれたのが、社長の中村だった。「マーケットが違うところに新しいチャレンジを仕掛けているんだから、赤字のリスクを心配していてもしょうがない。もっと出店のスピードを上げよう」。
当時、新業態開発の最前線にいた事業開発部長の斉藤は、そこにクオールの挑戦のDNAを感じたという。「連携する相手は他の薬局に処方元がどこにもないからと断られていたそうです。うちはあえてそこに挑む。最初は難しいかもしれないけど、挑むことに価値があると考えるからです。」企業文化や働き方の違いといった壁を乗り越えて、ローソンクオールは出店を加速。いまでは、30店舗以上にまで増えている。
新業態は、会社だけではなく、薬剤師の成長を後押ししてくれる。
100店舗という目標に向けて、クオールの異業種連携はさらなる拡大に向かっている。小田急と連携した駅ナカ薬局、ビックカメラ、ライフ、良品計画など小売業態との連携も進んできた。こうした異業種とのコラボレーションは利用者だけではなく、店舗で働く社員にとっても価値のある取り組みだと言える。
「もし自分が現場に戻るのなら、ぜひ新業態の店舗にチャレンジしたい」。そう語るのは、薬剤師で現在東日本関連会社統括部長の木下だ。当時は店舗での薬剤師業務の経験や、薬剤師としての知見を活かしつつ、新規店舗開発に携わっていた。
「門前薬局の場合、処方せんのほとんどが、連携している病院から届くものに限られます。別の診療科の薬を扱いたいと思ったら、異動するしかない。街ナカ薬局のような面薬局の場合、どんな処方せんが届くかまったく予測がつかない。自然と調剤のスキルが磨かれるんです。また、薬局でありながらコンビニや家電量販店と同レベルのサービスやスピード感が求められる。向上心のある薬剤師にとっては非常に魅力的な環境だと思いますよ」。
事業開発部が生み出すのは未来の薬局のカタチであると同時に、薬剤師の新しい活躍のフィールドでもある。10年後の薬局で、薬剤師はどんな風に働いているのだろう。彼らがつくっているのは薬局、そして薬剤師の未来なのだ。